「公共ビジネスの着眼点」 補助金・助成金を活用する際の前提

  大方の予想通り、4都府県に発出された緊急事態宣言は、当初の予定である5月11日を超え、月末まで延長されました。しかもさらに、北海道、岡山県、広島県にも拡大する方針とのこと。昨年の段階では「最終手段」であったはずの緊急事態宣言が、少しずつ効力を失っているように見える状況は、やはり心配です。そのような中、営業停止していた東京都内の寄席が、12日より営業再開しているそうです。

『東京都内の寄席4軒、12日から営業再開 客は定員の半数まで』

 記事によると、もともと今回の緊急事態宣言を受けて寄席4軒と落語協会、落語芸術協会の2団体は、都から無観客開催を要請されました。しかし発令前日に「要請に応じずに営業を続ける」と公表。納得しない都から「無観客開催に応じないなら休業」というさらに強い要請を受け、5月1日からの休業を決めた、という顛末があります。

 一連の動きの背景としては、官邸が文部科学省を通じて、落語家の取りまとめ組織である落語協会と落語芸術協会に圧力をかけたという説が有力です。寄席にとって落語は、キラーコンテンツとも言うべき存在です。その供給元を押さえることは、いわば“兵糧攻め”のような威力をもっていた訳です。

 それでは、なぜ落語協会や落語芸術協会は、文部科学省からの圧力に弱いのでしょうか。端的に言えば、助成金を受けているからです。
「平成31年度文化芸術振興費補助金による助成対象活動の決定について(文部科学省公表資料)」
https://www.ntj.jac.go.jp/assets/files/kikin/joho/h31/20190329_hojyokin.pdf

 継続的に年間数千万円という助成金を受けていれば、所轄官庁の要望は聞かざるを得ません。厳しい言い方になるかもしれませんが、収入の多くを助成金に依存し、持続可能なビジネスモデルを構築できていない時点で、独立性を確保した経営は難しいのです。国や自治体から補助金や助成金を受けることは、当然、なんら悪いことではありません。しかし同時に、それらに過度に依存することなく一定の独立性を保つこと、健全な関係をつくることの重要性から、目を逸らしてはいけません。

 当社では官公庁からの受注支援を主軸においていますが、補助金や助成金の獲得についてのご相談もよくあります。なぜなら当社のアドバイスは政策を組み立てる側の視点に立っているので、それがクライアントのみなさまにもにも腑に落ちるようで、実際採択率も高いからです。しかし、その時には必ず「補助金ありきでは無い」ということはお伝えしていますし、最初から補助金獲得そのものを目的にしているようなご相談はお断りしています。

 補助金や助成金獲得の際に重要になるのは「思い」と「手段」です。先に社会に対する課題認識、すなわち「思い」があり、それを解決するための「手段」を持っている、少なくとも持とうという意思がある。そういった前提のもとに、補助金や助成金といった行政の仕組みを利用するというスタンスでいれば、行政との依存関係は生じないのです。
 そこを理解していないと、いつの間にかお金を獲得すること自体が目的になってしまいます。そして明確なビジョンもなく、次から次へと取れそうな補助金に手を出すというような不健全なサイクルに陥ってしまうのです。

 思いと手段をベースに、公共領域に切り込んでいきたい。そんなたくましい経営者や企業のみなさまの、お手伝いができれば幸いです。