「公共ビジネスの着眼点」 菅総理肝いりのデジタル庁、発足前からいろいろな意味で注目の的に

 9月から発足するデジタル庁ですが、そのトップの人事に関する調整が、現在、最終段階に入っています。デジタル庁は菅首相の肝いりの組織であり、そこのトップに誰を立てるかは、メッセージ性の強い人事となります。

 デジタル庁のトップは他の官公庁とは異なり、官僚の中から選ばれる「長官」ではありません。「デジタル監」と呼ばれ、組織のトップではありませんが、担当大臣の補佐や組織・実務の監督まで、幅広い業務を受け持つ形となります。民間登用としては、最上級の権限を持つこの役職。誰が選ばれるかによって、デジタル改革の成否に強く影響することは間違いありません。

デジタル庁事務方トップに伊藤穰一氏 政府最終調整
https://news.yahoo.co.jp/articles/e897eb1ec366681dde12a65c7411d582102608d8

 今回、最有力候補として名前の挙がっている伊藤穣一氏は、MITメディアラボ所長、ハーバード大学ロースクール客員教授なども歴任した実業家で、ベンチャーキャピタリスト。PSINetJapan、デジタルガレージ、インフォシークなどの設立にも携わり、ソニー株式会社の戦略アドバイザーなども務めています。97年には警察庁のネットワークセキュリティ部門の立ち上げに寄与するなど、各界から引く手あまた。ネット界の風雲児とも称され、その経歴と能力は、まさにデジタル庁のトップにふさわしい人材と言えるでしょう。

 しかし、伊藤氏の名前が挙がった瞬間にミソが付きます。彼はかつて、性犯罪者であり金融業者でもあるジェフリー・エブスタイン氏との個人的・職業的な金銭的つながりが明るみに出たことで、2019年9月にはMIT、ハーバード大学、マッカーサー基金、ナイト財団などでの職務を辞任しているのです。
 当初、伊藤氏はエブスタイン氏の犯罪のことは知らなかったと表明し、各役職の辞任をしませんでした。しかしその直後、伊藤氏とエプスタイン氏の蜜月関係を示唆するスクープ記事が出ます。たとえばエブスタイン氏の犯罪歴を知りながら寄付を受け取っていたり、エブスタイン氏からの寄付を、寄付元がわからないように隠したりした形跡がうかがえる、というものです。そのスキャンダルを受けて、辞任を余儀なくされたという経緯があります。

 もともとこの人選は、平井デジタル改革担当大臣が進めており、平井大臣にも何人か意中の人がいたようです。しかしその多くに断られ、伊藤氏に流れ着いたということ。本来ならば何人目かの候補とは思えないほどの経歴と能力を持つ人材ですが、唯一の弱点があまりに大きく、悩みどころとなっています。このスキャンダルに関して、デジタル庁のほうではオファー段階で把握していなかった、とも言われています。真偽のほどは定かではありませんが「情報リテラシーの低いデジタル庁」と思われてしまってはたまりません。

 デジタル庁の発足にあたって平井大臣のパワハラ的言動が問題になっていたことも、記憶に新しいところです。これ以上の失点は避けたい中で、どのような落としどころになるのか。注目していきたいと思います。