「公共ビジネスの着眼点」 子ども庁構想から考える新組織攻略のポイント

『「子ども庁」創設に動く政府 コロナで少子化が加速』

 コロナ禍を受けて2021年1月の出生数は、前年同月比で14.6%の減少。ただでさえ国の存続を揺るがしかねない大問題になっていた少子化が、さらに深刻になっています。そんな中で菅総理大臣は、次期衆院選の目玉政策としての意味も込め、「子ども庁」創設の意向を示したとのこと。

 経済協力開発機構(OECD)などの調査によると、日本の家族関係社会支出(手当や給付金など)は、GDP比で1.9%。少子化対策で効果を上げているイギリス(3.4%)やフランス(2.9%)にやはり見劣りします。そんな背景もあり、「子ども庁」を創設することで、厚生労働省や文部科学省、内閣府など複数の省庁にまたがる子育て施策を強力に推進し、国を挙げて子育てしやすい社会を築く狙いがあるとみられます。

 新たな課題に対応するため、それに即した組織を立ち上げる。これは経営戦略の定石です。行政機関でも新たな社会的課題が注目されてくると、こういった議論が出てきます。

 実際に新しい行政組織が立ち上がるとなると、誰がトップに就くかが注目されがちです。

特に庁組織は知名度の高い民間人が登用されるケースが多く見られます。現在、「子ども庁」創設本部のトップは、自民党の重鎮、二階敏博幹事長です。そのまま「子ども庁」のトップに就くことは考えにくいでしょう。では、誰が就きそうなのでしょうか。

 たとえば、文化庁長官には故・河合隼雄京都大学名誉教授や作曲家の都倉俊一氏、スポーツ庁ではオリンピック金メダリストとして知名度の高い鈴木大地氏や室伏広治氏らが長官に就いています。こども庁の場合も、このような著名人路線が取られるかもしれません。

 さて、公共ビジネスに携わる立場としては、もちろん省庁のトップ人事も大切です。しかし、より重要なのは省庁間のパワーバランスと政策の仕分けです。

 もしこども庁ができると、先ほど記したとおり、教育行政全般を司る文部科学省、雇用均等・児童家庭局や社会援護局を擁する厚生労働省、子ども・子育て本部で戦略を立案する内閣府の三省庁が主に関わってきます。

 実は、文部科学省も厚生労働省も、霞ヶ関内の序列は「高い」とは言えません。また、最近では官邸の覚えもめでたくありません。そう考えると、扱っている政策の規模は大きくはないものの、内閣府が主導権を取ることも考えられるわけです。

 また、同様に重要なのが政策の仕分けです。新たな組織ができたからと言って、全くのゼロから政策をつくるという事にはなりません。目玉政策として新たに予算化されるものもありますが、ほとんどの場合、従来の枠組みを組み替える形で、再編成が行われます。事業名称だけを変えて、やる事は旧省庁で行っていた事とほとんど同じという事業も多い訳です。

 公共関連事業の受注を狙うときには、こういった要素を見極める必要があります。 省庁の立ち上げが決まったタイミングで「さぁ、新しい省庁ができたぞ。今からアタックをかけて入り込んでやる」などと考えているようでは、遅いわけです。

今まで受注していた、あるいは受注しようとしている事業は旧省庁に残るのか、あるいは新設省庁に移管されるのか。移管された場合は、どこの省庁出身者がその予算を差配するのか。はたまた目玉政策に入り込む余地があるのか。そういった要素を注意深く観察することが、新たなビジネスチャンスにつながるのです。