「公共ビジネスの着眼点」 中小企業診断士制度から考える専門家組織との連携

 経済産業省が、中小企業診断士制度の見直しを進めるそうです。

『中小診断士制度を見直し、1次試験合格者に新名称』

 これまで中小企業診断士の資格を取るためには「1次試験」「2次(筆記・口述)試験」「実務補習・実務従事」の3段階の試験をクリアする必要がありました。その制度を見直して、1次試験合格者や、更新研修の受講者に対しても新たに名称を付与。また1次試験で求められる7項目(経済学、財務など)の、各科目の合格者に対しても、対外的に提示できる名称を与えるとしています。

 さらに、合格後に5年ごとに求められる更新研修のうち、専門知識の習得に関する研修を終えた受講者にも同様に名称の付与を検討。IT、事業承継、企業再生など、各診断士が得意とする分野の専門性をアピールできるように、制度設計を進めています。

 この見直しの裏には試験科目の多さや、1次試験で2~3割である低い合格率などに対して、専門職として対外的に示す材料が少なく、途中で諦めてしまう志望者も多いため、他の士業と比べて独立開業する割合が低い、という実情がありました。

 いわゆる「士業」と言われる専門家には、それぞれに監督官庁があります。

 たとえば弁護士は法務省、公認会計士は金融庁、社会保険労務士は厚生労働省の監督下にあります。そして、中小企業診断士の監督官庁は経済産業省であり、その外局である中小企業庁になります。

 一般的に監督官庁と有資格者の関係は上下関係になりやすく、上から下に対しては「言うことを聞かない」、下から上に対しては「現場のこともわからず勝手なことを言っている」などと、お互いに不平不満を持つことが多いものです。

 そんな中、中小企業庁と中小企業診断士の関係は、今のところ比較的良好だと言っていいでしょう。なぜなら、ここ数年の与党政権下では中小企業向けの政策が手厚く講じられており、中小企業診断士はこれらの施策の担い手の一つとして機能しているからです。そして、その機能をより強化・拡大させようという狙いが、冒頭の見直しの背景としてあります。

 中小企業庁との良好な関係を築くことは、中小企業診断士側から見てもメリットがあります。実は、中小企業診断士は経営コンサルタントに関する唯一の国家資格と謳われますが、独占業務がある訳でもなく、明確な存在意義を打ち出しにくい資格です。他の士業と比較して独立開業の割合が低いことも、その証左と言えるでしょう。

 そこで、中小企業庁との良好な関係を維持することで、この手の国の政策に関わることができればそれが収入源の一つとなり、資格取得のメリットを打ち出せる側面があるのです。

 中小企業向けの政策に限らず、官公庁の仕事に携わる際には、このような専門家組織との連携が求められることがよくあります。専門的知見を専門家組織と組むことによって担保しながら、それ以外の機能を提供する訳です。そして、公共案件のプロジェクトマネジメントに慣れている企業は彼らの立場を理解しながら、役割やメリットを提示することで、うまく協力関係をつくります。そして大きな施策を仕掛けることができるのです。

 公共ビジネスの醍醐味の一つは、多様なプレーヤーを巻き込んで大きな施策を仕掛けることで、社会的なインパクトを残せるところにあります。是非そのような意欲のある企業のお手伝いができれば幸いです。