「公共ビジネスの着眼点」 キャリア官僚の労働環境・労働事情について考える

 

『キャリア官僚の人気凋落で加藤官房長官「働き方改革が急務」』

 記事によると、2021年度の国家公務員総合職試験の申込者数は1万4310人。これは前年度比で14・5%減の数値であり、現行の試験が導入された12年度以降では最少。減少率は過去最大だったということです。この数字を受けた加藤官房長官は記者会見にて「「長時間勤務の是正など働き方改革は急務だ」と述べ、対策に取り組む考えを示したとか。

 キャリア官僚といえば、かつては東大生にとっての人気就職先として知られていました。ここ数年の政・官のスキャンダルや、長時間の深夜残業をはじめとする過剰労働が続く報道などを受けて、その人気が急落しているとのこと。国家の根幹を担うキャリア官僚が、優秀な人材に避けられる職場・職業となったとすれば、非常に残念なことです。

 たしかに常日頃から彼らと接していると、ブラックというか“常に多忙にしている”という印象があります。突然のリスケもありますし、明らかに徹夜明けでの打ち合わせに臨まれる姿もよく見ます。

 彼らの忙しさの原因は、主に次の3つに分解できるのではないかと思います。

 一つ目は彼らの主要業務の一つ「政策作り」の、業務としての圧倒的な困難さです。
 当然ながら政策作りは個人完結型、もしくは部署完結型の業務ではありません。各種ステークホルダーとの合意を取り付ける必要があるため、膨大な量の調整業務が発生します。
 一つの法律をつくるためには政治家、業界団体、有識者との調整が必要なうえ、当然ながら「その法律の必要性や正当性」(これを立法事実と言います)の根拠づくりとして、関係者からのインタビューなども必要になります。特に国会の時期になると、各委員会における担当大臣の国会答弁に備えて待機しなければなりません。さらに国会のスケジュールは、その時々の事情や政局により、与野党の国体委員長の会談を受けて容易に変更されます。官僚もそれに合わせて動かざるを得ないため、非常にタイムマネジメントがしづらいのです。

 二つ目はそれに付随する、突発的でイレギュラーな対応の多さです。
 みずからが管轄している政策や業界がマスコミなどで取り上げられ、内容の不備や世論からの反発があり叩かれると、その対応に追われます。それ以外にも、政治家からの陳情依頼や、調べ物に対応することもあります。このようなイレギュラーな案件が結構な頻度で発生するので、もはやイレギュラーではなく、彼らの本業でないかとすら思えてくるほどです。

 最後の要素は、国家公務員が労働基準法の適用外だということです。
 国家公務員法付則16条、および労働契約法第22条1項を法的根拠に、多くの国家公務員は労働関連法の適用対象外とされています(厳密には職種により適用範囲が異なるようです)。
 その代わりとして公務員の就業環境を定めるものの一つが「人事院規則」です。2019年4月より施行される人事院規則の改定を受けて、キャリア官僚をはじめ「国会対応や外交など、繁忙期や業務量が左右されやすい部署で働く職員は『月100時間未満、年720時間以下』までの残業を認める」とされています。これは同時期に施行された労働基準法改正による「⽉45時間・年360時間」の、ほぼ倍にあたります。
 そして一般社会の多くの現場にて、労働基準法が決して遵守されていないことと同様に、国家公務員の残業上限も、特に有事の際にはなかったことにされがちです。「国民への奉仕」をお題目に、残業が青天井になりがちなのです。

 キャリア官僚をビジネスパートナーとする私たちは、彼らを取り巻くこのような労働環境を把握し、理解を見せることが必要になります。大切なのは、彼らの立場を理解し、この機に何かフォローできることはないか、提案できることはないか、といった点に考えを巡らせることです。

 顧客のニーズを理解し、それを満たすことがビジネス成功の秘訣であることは、どんな相手でも変わりません。こういったことができて、初めてパートナー企業として、信頼されるポジションを確立できるのです。