「公共ビジネスの着眼点」 吉本興業が公共ビジネスで重宝される理由

現在、コロナ禍で飲食業界やエンタメ界が苦境にある中で「一人勝ちが進んでいる」とされるのが吉本興業です。

コロナ禍で吉本興業“一人勝ち”が進むワケ 番組外収入にも強み
https://news.yahoo.co.jp/articles/e4b3423aa7179d60a12d111210805bbf6baafa61

 たしかにほかの大手プロダクションが大ダメージを受けている中、テレビを付ければバラエティー番組はもとより、スポーツや情報番組にまで、幅広く所属芸人を出演させています。その要因として、記事では大きく二つの要因を挙げています。

 ひとつはユーチューブなどのネット動画、およびさまざまなSNSに強い芸人が多いこと。人気YouTuberのHIKAKINらが所属するUUUMと業務提携して、そのノウハウをいち早く取り入れた結果、所属芸人たちのチャンネルが次々と登録者数100万人を突破しています。「かまいたち」や「霜降り明星」のようなテレビで人気の芸人はともかく、あまりテレビでの活躍は見られず、フィットネス動画が中心の「なかやまきんに君」のチャンネルも、登録者126万人(7月16日現在)なのは、少し驚いてしまいます。
 若者のテレビ離れが進む中、ネット動画やSNSでの知名度がテレビ出演へと逆流していくのは、自然な流れと言えるでしょう。

 もう一つの要素が「官公庁との太いパイプ」です。ここ数年、吉本興業は政府との距離を縮め、国策企業としての側面を強めています。官公庁との取引が増えてきたことで、コンプライアンス遵守が求められ、その結果として数年前の闇営業問題が大騒動になったのは、記憶に新しいところです。

 改めて考えみると、行政機関(特に国・中央省庁)と吉本興行との親和性はかなり高いと言っていいでしょう。理由は二つあります。

 一つは政策がソフト志向になってきているという点です。
 土木工事を始めとするハードの整備が一段落し、ハードの利用・活用や人・情報・コンテンツの育成、すなわちソフト重視が進んできたのが、中長期的な政策トレンドです。「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げていたのは民主党政権ですが、大きな方向性としては自民党政権も変わりません。

 もう一つの理由は、国のニーズと吉本興行のリソースの適合性です。
 もともと、国というのは原則として日本全国に遍く、それが難しい場合でもバランスよく政策を行きわたらせることが求められます。それは47都道府県単位であったり、時にはいくつかの都道府県をまとめた地方単位になったりするわけです。
 一方、吉本興行には6,000人もの芸人が所属しています。彼らの大半は食えない、つまりお笑い一本で生活費を賄えるほどの収入は無いといっていいでしょう。したがって食うために、あるいは売れっ子になるチャンスを掴むためとあれば、どこに行ってもいいという芸人はいくらでもいるでしょう。そんな彼らを有効に使うために2011年に立ち上げられたのが「あなたの街に住みますプロジェクト」、通称「よしもと住みます芸人」です。
 つまり吉本興行は、日本全国どこでもユーモアで包んだコンテンツを発信することのできる、極めて使い勝手のいいリソースを大量に保有しているわけです。全国規模の政策を展開したい国と、そのための道具をもっている吉本興行が接近するのはある意味、当然です。

 翻って見ると吉本興業は「公共ビジネスへの参入」を検討している企業にとって一つの好例となります。吉本興行ほどの規模でなくても、独自のテーマで広い範囲に拠点やネットワークを有している事業者は、たくさんあります。そのような事業者は、中央省庁に営業をかけてみる価値はあります。適切な方策さえ知っていれば大型案件受注も可能ですし、継続的に仕事を取り続けていくこともできます。
 もう一度御社のリソースを見直してみて、官公庁ビジネスで活かしてみてはどうでしょうか。