「公共ビジネスの着眼点」 労働者に朗報も、中小企業経営者を直撃する「最低賃金の引き上げ」

 直前まで混乱が続いたオリンピックでしたが、本番を迎えています。
 柔道の金メダルラッシュや日本卓球史上初の金メダル、注目度が低かった「スケートボード」での日本勢の大活躍など、厳しい環境で精進を重ねてきたアスリートのみなさんの努力が花開いている様子に、多くの国民が盛り上がりを見せていることは確かです。

 一方で新型コロナは、ついに1日あたりの全国の新規感染者数が1万人を突破。特に東京は4000人近くになるなど、過去最大の感染拡大を記録しています。行政が今後も難しい舵取りを強いられていることは、間違いないでしょう。

 そんな中、今回は次のニュースに注目してみます。

最低賃金3%上げ、全国平均930円 28円増を審議会決定
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA136230T10C21A7000000/

 厚生省の諮問機関である中央性低賃金審議会の小委員会は、2021年度の最低賃金を全国平均で28円を目安に引き上げ、時給930円にすることを決めました。この引き上げ額は過去最大ではありますが、主要先進国の中では今なお、低い水準にとどまっています。

 最低賃金は企業が労働者に支払わないといけない最低限の時給であり、違反企業には罰則もあります。現在の全国平均は902円。国の審議会が目安を毎年決め、これを基に各都道府県が実際の金額を決めます。10月ごろに新たな最低賃金が適用されることになります。
 ワーキングプア問題は現在の日本における最重要課題でもあり、この決定は間違いなく、労働者にとっては朗報です。しかしコロナ禍に苦しむ中小企業の経営者にとっては、厳しい決定と言えるでしょう。

 最低賃金をめぐる議論の元になる理論としては、もともと菅政権のブレーンと言われるデービッド・アトキンソン氏の主張がよく知られています。彼の主張によると、
・日本企業の大半は生産性の低い中小零細企業で占められている
・最低賃金を上げることによって、この構造を再編することが日本復活の処方箋となる
ということです。

 日本の企業のうち、企業数では99.7%、雇用人数では約7割を占める中小企業。この再編によって社会構造自体を変革し、生産性を上げていくことが日本経済の復活の条件である、という主張です。簡単に言えば「経済成長の前提となるこの変革についてこられない中小企業は、淘汰されてしかるべき」ということ。この方針に関しては、まさに賛否両論、さまざまな意見が飛び交っています。こちらは昨年11月の記事です。

アトキンソン氏vs日商・三村会頭 中小企業政策で衝突
https://digital.asahi.com/articles/ASNCM76F9NCMUTFK00Q.html

 対峙する日商・三村会長の主張は「雇用に占める中小企業の割合は東京・大阪の大都市を除くと8割超に上る」「小規模企業の減少は都市への雇用流出につながり、地方の衰退を加速させている」というもの。中小企業が地方の雇用の受け皿になっていることを強調して、慎重な対応を訴えています。
 日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟37か国中21位。一人あたりはもっと悪く、37か国中26位です。これを改善させる必要性は、異論を待たないところです。問題はその手段だというのが、日商・三村会長の主張になります。

 いずれにしても今回の引き上げ、および今後の政策に関して、アトキンソン氏の主張が影響力を及ぼしている可能性は高いと言えます。今後、中小企業の整理統合が進められることは避けられないでしょう。事業の再構築や新市場の開拓も求められるでしょう。
 弊社では「どのような社会環境の下でも生き残る」という強い意志をもった会社を、引き続き応援していきたいと思います。