「公共ビジネスの着眼点」 「厚生労働省の飲み会」から行政職員との信頼構築のコツを考える

 先月末、深夜まで大人数で行われたという厚生労働省の送別会が激しい非難を受けたのは、記憶に新しいところです。

 報道によると、3月24日に同省の職員23人が、都内の飲食店で老人保健課の課長・Aさんの提案のもとに送別会を敢行。当時、東京都の緊急事態宣言は直前に解除されていたものの、飲食店の時短要請(21時まで)は継続中でした。そんな中で、送別会はマスクもせずに、深夜まで行われていたそうです。

 発覚後、菅義偉首相や厚労省の田村憲久大臣は即座に謝罪。Aさんは減給1カ月の懲戒処分、大臣官房付け異動となりましたが、これは事実上の更迭です。

 この一連の騒動が、マスコミやネット世論で叩かれているわけですが、正直なところ、送別会に参加した職員には、同情の余地があると思います。

 時代は変わりつつあるとはいえ、やはり上司からの誘いは断りづらいものです。自分だけが断ると、周りの雰囲気を悪くしてしまう。上司からの覚えも少なからず、めでたくなくなる。そういった職員の感情は行政・民間問わず、どのような組織でもあるものです。実際、歓送迎会シーズンを前に緊急事態宣言が解除されたことを受けて、多くの職場で似たような現象が起きていたのではないでしょうか。

 今回の問題は、なぜコロナ禍のこの時期に、政策当局の幹部がこのようなことをしてしまったのか、ということです。その要因として一つ、行政担当者は「ルールをつくる立場」だということが上げられます。

 法律はもちろん、省令、条令、通達、各種ガイドライン、等々。行政機関の仕事は「ルールづくり」に尽きると言っても過言ではありません。特に中央省庁に勤務するキャリア官僚であれば、その意識は非常に強いでしょう。

 報道によると、もともと当該の課長Aさんは、飲食店の営業時短要請には「意味がない」と否定的だったとのこと。専門知識を持つ医系技官という事もあり、自分自身の見解に自信も持っていたことでしょう。 

 そこから「現行のルールは間違っている」→「(少なくとも法律に違反している訳ではないから)無視しても構わない」のように思考が推移していったであろうことは、想像に難くありません。

 その見解は、もしかしたら正しいのかもしれません。しかし、コロナ行政を司る行政機関が取る行動としては、あまりにも市民感情に鈍感だったと言わざるを得ないでしょう。 

 本件は極端な事例としても、実は行政職員と仕事をしていると、一般の感覚とは「ズレている」ように思える意見やアイデアが出ることは、ままあります。

 行政職員を相手に仕事する際には、これらの「ズレ」に向き合う必要があります。かといってそれを端から否定するという話ではありません。なにより大なり小なり、誰もが「自分の周囲における常識的な感覚」に従って行動しているわけで、それらは頭から否定されたとしても容易に受け入れられるものではないでしょう。

 ここで求められているのは、それらを一方的に否定するわけでもなく、かと言って肯定するわけでもない「バランスの取れた言動」。彼らの立場を深く理解しつつ、さらには市民感情の相場感を踏まえた上でバランスの取れた見解を示し、具体的な提案を行う。

 これができれば、行政職員との仕事において、信頼できるパートナーとしての立場を築くことができるでしょう。