「公共ビジネスの着眼点」 「官公庁だから……」の固定観念は一旦、捨ててみよう

今回は農林水産省のYouTubeサイトを紹介したいと思います。

『農林水産省 公式YouTubeチャンネル BUZZ MAFF(ばずまふ)』

 2020年1月7日より動画配信をスタートし、チャンネル登録者数は約6万3000人(2021年5月現在)。ほぼ毎日、新規動画をアップしています。省の職員みずからがYouTuberとなり、その人ならではのスキルや個性を活かして、日本の農林水産物の良さや農林水産業、農山漁村の魅力を発信するプロジェクトです。

 他の省庁でもYouTubeを活用した広報は行っています。ただ、比較してご覧いただければ分かるように、あきらかに毛色が違います。他の省庁のYouTube動画が「単なる情報発信」に留まっているのに対して、農林水産省のそれは「YouTube番組」になっているのです。数多くの職員が登場しますが、多くが明るくてノリも良く、構成もしっかり考えられています。動画のサムネイルもしっかり絵作りしてあり、覗いてみたくなるキャッチが付けられています。お堅い役所のイメージからは離れた、柔らかめのコンテンツになっているのです。

 この取り組みを、農林水産省が始めたというのも興味深いところです。決して他意はありませんが、農林水産省は中央省庁の中では地味なイメージがあり、人によっては「保守的で古い慣習に縛られた業界を守ろうとする省庁」という印象すらあるかもしれません。しかし、巨大組織の中で「現状を変えたい」と考える人たちは、たいていその組織の中では周辺領域にいる人たちです。傍流にあるが故に、思い切った施策を打ちやすい、という側面もあるのです。

 一度、こういった施策が注目を浴びれば、他の省庁も取り入れやすくなります。
 もちろん、他の省庁も独自性を打ち出したいという思いはありますので、そのまま真似をするようなことにはならないでしょう。ただ「YouTube等のメディアを積極的に活用していこう」という方向には、より一層進んでいくのは間違いないでしょう。

 日常の報道などからは伝わりづらいかと思いますが、官公庁も「何とかお堅いイメージから脱却しよう」と奮闘している一面も、確実にあります。新しい視点や手法を用いた情報発信を行いたい、と考えながらも、前例がないため踏み出せないということも多いのです。

 官公庁を相手にこの手の情報発信サービスを売り込みたい、と考えている企業の中にも、実はそのような視点が欠けている人も少なくありません。「霞が関相手だから、無難にお堅いパッケージでなければ相手にされないのでは」と考えてしまうのでしょう。そこに囚われていては、ほかの提案者との明確な差別化は不可能です。もちろん程度にもよりますが、それがもっとも効果的な情報提供の手段であることを伝えられれば、かなり砕けた内容でも官公庁で採用されることもあるのです。その認識を持てるか否かだけで、提案の採用率は大きく変わってくることでしょう。