「公共ビジネスの着眼点」 先行きが見えない中東情勢。有事の中小企業支援と診断士の役割を再考する
今年2月の米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃を発端とする中東情勢の緊迫化・長期化を受け、政府は特別相談窓口の設置や政府系金融機関等による資金繰り支援の強化など、迅速な対応を進めています。
#中小企業庁HP「中東情勢等を踏まえた中小企業・小規模事業者向け支援について」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/kokusai_josei/index.html
#時事通信 5月21日付「石油製品目詰まり、実態把握指示 出先機関で業者に聞き取り―高市首相」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2026052100893&g=eco#goog_rewarded
〇政府による有事の公的支援の現状は?
中小企業庁は、中東情勢に関する特別相談窓口を設置し、日本政策金融公庫や商工会議所、信用保証協会、よろず支援拠点など全国の支援機関で相談対応を開始しました。さらに、セーフティネット貸付の要件緩和や金利引下げ措置などに加え、流通事業者への聞き取り調査を行うなど、政府・支援機関がスピード感を持って動いていることは間違いありません。
特に有事においては、「まず資金繰りを守る」という視点が極めて重要です。原油価格の高騰や物流混乱は、利益の減少だけでなく、企業のキャッシュフローを直接圧迫し、一気に資金繰りが厳しくなるケースも少なくありません。そのため、融資支援には高い即効性があり、多くの中小企業にとって重要な支えになっています。
また、政府としては、金融支援だけでなく特別相談窓口による経営相談を含めた支援体制も併せて整備することで、単なる資金供給だけで終わらせない姿勢を打ち出しています。
〇公的支援における「制度」と「現場」のギャップ
しかし、公的支援の現場からは、「公的支援」と「経営課題」の間には、依然として大きなギャップがあるという声も聞こえてきます。
これはコロナ禍でも見られたことですが、特別相談窓口そのものは比較的早い段階で設置される一方、現場の相談員が融資以外に紹介できる具体的な支援制度は、まだ十分整っていないケースが少なくありません。
また、仮に支援制度が創設されたとしても、設計上どうしても「後追い」の支援になりやすい傾向にもあります。例えば、融資に匹敵するほど相談の多い補助金については、予算確保、公募開始、審査、交付決定といったプロセスが必要になるため、入金までに相当な時間を要し、緊急局面では即効性に欠けます。
このため、公的支援の現場に実際に困っている事業者が来ているにもかかわらず、「まずは融資のご相談を」という対応が中心になってしまいがちのようです。
しかし、資金不足の背景には、「燃料費が上がっても価格改定ができない」、「原材料価格が不安定で見積が出せない」「先行きが読めず、投資判断ができない」といった悩み事があるはずです。
つまり、必要なのは単なる「資金の注入」だけでなく、利益を確保できる経営構造へ転換といった「経営そのものの見直し」であり、有事によって会社本来の課題が浮き彫りになったとも言えるでしょう。
〇有事にこそ問われる中小企業診断士の役割
こうした状況こそ、中小企業診断士の存在意義が大きくなるのではないでしょうか。例えば、価格転嫁に悩む企業に対しては、原価構造を整理し、どのコストがどれだけ上昇しているのかを見える化した上で、取引先にどう説明すべきかを一緒に考える必要があります。また、利益率の低い取引が全体収益を圧迫しているのであれば、取引構成そのものを見直す必要があるかもしれません。
また、物流費高騰への対応として、納品頻度や配送方法の見直し、代替調達先の検討が必要になるケースもあります。固定費負担が重い企業では、省力化投資や業務プロセス改善による収益構造改革が求められる場合もあるでしょう。
有事に必要なのは、「制度を待つこと」ではなく「今ある経営資源でどう生き残るか」を考えることです。
近年は、中東情勢だけでなく、円安、エネルギー価格上昇、人手不足、物流制約など、中小企業経営を取り巻く不確実性が高まり続けています。一つの問題が落ち着いたと思えば、また別のリスクが発生する中で、「何を前提に経営判断をすればいいのか分からない」と感じている経営者も増えています。
こうした時代だからこそ、必要なのは変化への適応を支える伴走支援なのではないでしょうか。個別具体の経営課題に向き合えるのは、最終的には「人」による支援です。先の見えない有事の時代こそ、中小企業診断士には、制度の橋渡し役に留まらない役割が期待されていると言えるでしょう。
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