「公共ビジネスの着眼点」 「100億企業」の次は「10億企業」創出へ。政府の狙いとは?
政府は今年度から、「売上10億円規模の企業群」の創出を強く意識した政策展開を進めようとしています。
#中小企業庁「労働供給制約社会における中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化戦略(案)に伴う政策の見直しについて(概要)(p.5~8)」
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/soukai/045/dl/002_1.pdf
政府は近年、中小企業政策の重点を企業の「成長」に置いてます。その象徴が、昨年度から始まった売上高100億円を目指す企業への支援と言えるでしょう。
背景にあるのは、人口減少、人手不足、賃上げ圧力の高まりです。これまでのように、中小・小規模事業者を薄く広く支えるだけでは、地域経済全体の縮小は止まらないと考えられるため、地域で雇用を生み、取引先に発注し、賃上げの原資を確保できる「稼ぐ企業」を増やさなければいけないという問題意識があるのだと思います。
ただし、地方の中小企業の現実を見ると、いきなり100億円を目指せる企業は決して多くありません。一定の市場規模、組織力、資金調達力、人材採用力がなければ、目標として掲げること自体が現実味を持ちにくい面があります。
そこで今回、政府が注目し始めているのが「10億企業」です。100億円企業を一部のトップランナー政策と見るなら、10億円企業の創出は、より地域の実態に近い成長政策だと言えるでしょう。
○10億円は「売上目標」ではなく「経営の壁」
売上高10億円という数字は、単なる規模の目安ではありません。中小企業にとっては、経営のあり方が変わる一つの節目と言えます。
売上高1億円前後までは、社長の営業力、現場対応力、資金繰り感覚で何とか回る企業も少なくありません。いわば「社長の目が届く経営」です。
しかし、そこからさらに成長し、数億円規模を超えて10億円を目指す段階になると、社長一人の力量だけでは限界が見え始めます。営業、製造、採用、経理、資金繰り、品質管理など、経営の各機能を分担や、右腕人材や管理職の育成が必要となるだけでなく、DXや省力化投資も「あれば便利」ではなく「やらなければ回らない」課題になっていきます。
つまり、10億円を目指す過程では、いわゆる「家業的経営」から「組織的経営」への転換が避けられません。この意味で、政府が10億企業創出を打ち出したことは、単に売上を伸ばす企業を増やしたいという話ではなく、地域の中小企業に対して、経営管理能力を高め、投資に踏み切り、人材を採用・育成し、地域の中核企業へと成長してほしいというメッセージだと捉えるべきでしょう。
○10億企業創出の立役者は地域金融機関と診断士
今回の政策で注目すべき点は、メインバンクの伴走支援が強く意識されていることです。10億円規模を目指す企業は、100億円企業ほど資本市場や大規模M&Aに近い存在ではありません。多くの場合、資金調達の中心は地域金融機関です。ここで診断士に求められる役割も変わってくるでしょう。
これまでの支援では、補助金申請、経営改善計画、事業承継計画など、個別の企業に個別テーマごとの支援が中心になりがちでした。しかし、10億企業を目指す支援では、それらをバラバラに扱うだけでは不十分です。
必要なのは、ひとつの企業に対して成長戦略、組織設計、資金調達、投資判断、人材育成、販路開拓を一体で捉える視点です。
例えば、「新設備を入れるべきか」という相談であっても、単なる投資回収計算だけでは足りません。その設備投資によって、どの市場を取りに行くのか。営業体制は整っているのか。人材は採れるのか。借入返済に耐えられる収益構造になるのか。金融機関に対して、どのような成長ストーリーを示せるのか。こうした論点をつなげて整理する必要があります。
10億企業創出の政策は、診断士にとって「金融機関と企業の間に立ち、成長の仲介人になる」機会を広げるものだと言えそうです。
○診断士の役割は「改善支援」から「成長支援」へ
コロナ禍以降の中小企業支援では、業績悪化企業の経営改善や資金繰り支援、事業承継などが重要なテーマでした。もちろん、そうした支援の重要性は今後も変わりません。
しかし、10億企業創出という政策の方向性を見ると、今後は「どの企業を成長させるか」という視点の重要性が高まっていくように思えます。
地域には、高い技術力や独自の商品・サービスを持ちながらも、経営者一人に依存した経営から脱却できず、数億円規模で足踏みしている企業が少なくありません。こうした企業は、適切な投資や組織化、販路開拓によって、地域の中核企業へ成長する可能性を秘めています。
これらを踏まえると診断士にとっては、現在の売上規模や財務状況だけではなく、その企業が持つ事業の強み、市場の成長性、経営者の変革意欲、組織化の余地など、「将来の成長可能性」を見極める視点がこれまで以上に重要になるのではないでしょうか。
当社は、官公庁への効果的なアプローチ方法について、伴走型の専門的なアドバイスを行っています。
「行政の考え方や政策の意図を知り、ビジネスに活用していきたい」「うちの強みを活かして公共ビジネスに参入する余地はあるのか」、「どういう風に官公庁や自治体と付き合っていけばよいのか」などのご相談がございましたら、ぜひ当社にご連絡ください。
